18時間待ってやっと、通りがかった郵便船ジュピター号が、救助してくれた。皆ホッとして、ジュピター号に乗り込んだが、一息付けたかと思う間もなく、ジュピター号も座礁して、船体に大穴が空いてしまった。

 ここまで来ると、もはや災難を通り越して、笑い話だ。今度も、一人として死ぬことなく、全員泳いで近くにあった岩礁に辿り着いた。

 そこで待っていると、イギリスの客船シティ・オブ・リーズ号が通りがかり、彼等を救助してくれた。遭難者の数は、128名に増えていた。
 

 連続して、五隻の船が沈んでしまうという信じられないような悪運、そして一人も欠けることなく全員が救助されたという考えられない幸運、この不思議な事の成り行きについて救助された全員が、甲板で話していると、そこにシティ・オブ・リーズ号の船医が、話しかけてきた。
 

「誰か、この中に、イギリスのヨークシャー生まれの人は、いませんか?今、乗客のご婦人が、お一人、重病でうなされていて、うわ言で息子さんの名前を呼んでらっしゃるんですよ。その方に、息子さんの振りをして話しかけてもらえると助かるんですけどね。」
 

 イギリスの方言は、地方地方でイントネーションも使われている単語も全く違うので、ヨークシャー出身の人じゃないと、別人だとバレてしまうからだろう。船医は、何としても、ヨークシャー出身の男性を探し出したかったのだ。(続く)